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Murder of the Universe

Murder Of The Universe
"Murder Of The Universe" from Discog
2017年6月23日発表
No.TracklistTime
Chap.1 - The Tale Of The Altered Beast
1.A New World0:57
2.Altered Beast I2:23
3.Alter Me I0:45
4.Altered Beast II4:28
5.Alter Me II1:25
6.Altered Beast III2:14
7.Alter Me III1:26
8.Altered Beast IV5:10
9.Life/Death0:59
Chap.2 - The Lord Of Lightning vs Balrog
10.Some Context0:17
11.The Reticent Raconteur1:04
12.The Lord Of Lightning5:07
13.The Balrog4:29
14.The Floating Fire1:54
15.The Acid Corpse1:00
Chap.3 - Han-Tyumi And The Murder Of The Universe
16.Welcome To An Altered Future0:55
17.Digital Black2:46
18.Han-Tyumi, The Confused Cyborg2:21
19.Soy-Protein Munt Machine0:30
20.Vomit Coffin2:19
21.Murder Of The Universe4:09

キンギザの狂気と哲学が無矛盾にキメラ化したカルト的最高傑作

h3

 っきり申し上げてよろしいでしょうか。本作"Murder Of The Universe(以下MOTUと呼称)"はキンギザの最高傑作です。もちろん現時点(2021年3月)では、の話ですが。個人的には、あまり作家の作品に一番とか決めたくないんですけど、これだけは言ってしまいたいというか、それほど惚れ込んでいます。リーダーのStu Mackengie氏はこの作品について、キンギザ作品のなかでも一番お気に入りで、最も馬鹿げていて最も醜い作品である、と紹介しています。好き嫌いは真っ二つに分かれるだろうとも言っていますが…私は完全にこの作品に心を取り憑かれた側の人間です。石井聰亙の狂い咲きサンダーロードのように、あるいはスタンリー・キューブリックのバリー・リンドンのように、それを心に思い浮かべただけで自然と泣きそうになってしまいそうな、問答無用のマスターピースなんです。普段は周りから難解で気取った映画ばかり好む、衒学的なサブカル野郎だと罵られている(気がする)私ですが、違うんです、本当に素晴らしい作品というのは難解なように見えてシンプル、シンプルでいて無尽の厚みと奥深さがあるものなのです。そして"MOTU"はこの条件を間違いなく満たしています。
 本作品はキンギザの全作品の中でも最大の曲数を誇る、全21曲。しかしながらその内実は3章に分割されていて、実質1章が組曲形式の1曲です。つまりこの作品は全3曲と言えるわけですね。実に男らしくマッシブな、70年代プログレのような構成です。このようなチャプター形式の構成はのちの名作"Polygondwanaland"でも採用されています。ストーリーも結構繋がっている要素があります。また、2ndアルバム"Eyes Like Sky"で実験されていた、演奏に被さる全編を通したナレーションも採用されていて、これが物語性を強固にしているとともに、密教的な怪しい雰囲気をぷんぷんと撒き散らしています。演奏中にがんがんナレーションが流れるので、けっこう賛否両論ありそうですが、個人的には大好物だし、この試みは成功していると思います。
 第1章は"The Tale Of The Altered Beast"、文字通り"Altered Beast"—人間が野獣化した半人間/半獣の怪物—についての物語です。テレビゲームに詳しいかたならピンと来ると思いますが、"Altered Beast"とは、SEGAが80年代にアーケードゲームやメガドライブなどで発売していた"獣王記"の海外版タイトルです。名前とすごく難しいゲームであることだけは聞いたことあるのですが、私はやったことないんですよね…とにかくこのゲームの主人公を操作して敵を倒し、オーブをとりながらどんどん野獣化して強くなっていく、みたいな感じらしく、これがモチーフとなっています。力を欲し獣化してしまったが故に、変容していく意識と失われる人間性に絶望する男の物語です。第2章は"The Lord Of Lightning vs Balrog"で、これは雷の主、雷を操る超常的な力をもつ神的存在—"The Lord of the Lightning"と、彼の破壊の副産物として生まれた、炎に包まれ憎悪を纏う悪魔的怪物—"Balrog"のバトルが描かれています。男の子の心をくすぐるようワクワク感ありますよね?前者はおそらくロジャー・ゼラズニイ著のSF小説、"Lord of Light[Wikipedia]"が元ネタ、後者はかの有名な、J・R・R・トールキン作"The Lord of the Rings(指輪物語)"の中に登場する悪魔が元ネタになっているそうです。第3章は"Han-Tyumi And The Murder Of The Universe"、これは未来に人間が残らず機械化し、最後の人間でありながら半身が機械化されているサイボーグ"Han-Tyumi(ヘン-タイウミ)"が主人公の物語です。"Han-Tyumi"ってどういう名前だよって感じですが、これは"Humanity(人間性)"のアナグラムであることがStu氏から語られています。この単語は物語の核心に結びついている重要なタームです。この"Han-Tyumi"がいかにして"Murder of the Universe(宇宙の殺人)"を起こしたかが語られます。以上全3章はそれぞれ独立した物語ではありますが、考察すると繋がりも見えてくる緩やかな連環関係でもあります。
 だらだらと能書きを垂れましたが、サウンドの方向性としては名作"Nonagon Infinity"の延長線上にあり、難しいこと考えずに頭と腰をシェイクしまくって拳を突き上げてしまうHR/HM的作品であり、変拍子とポリリズムと不気味なSEやシンセサウンド、ナレーションによる演出的表現に満ちた壮大なプログレ作品でもあります。まずは爆音で聴いて脳髄を沸騰させましょう。そして歌詞を読んで濃厚な"Gizzverse"の世界観にどっぷりと頭まで浸かれば、きっと忘れられない作品になるはずです。

第1章:The Tale Of The Altered Beast

 M1"A New World"は、不穏なシンセサウンドと、Leah Senior(リア・シニア: オーストラリアのメルボルン出身、キンギザと同郷の女性シンガーソングライター)により世界のはじまりの詩が語られる美しいナレーションが神秘的な、アルバム全体の序曲です。徐々に緊迫感が張り詰めていき臨界点でヘヴィーなディストーションギターが"ガーン"と鳴り響き、それはもう最高に興奮します。すでにちょっと泣きそうになります。Yesの"Close to the Edge"の冒頭のような、こんなん絶対名盤やん、と思わせる完璧なプログレ的導入です。このあとどんな壮大な音楽が展開するんだろうという、期待感がはち切れんばかりです。
 M2"Altered Beast I"、ここで組曲第1章の主題が提示されます。壮大すぎる導入からまったく焦らすことなく、期待を裏切らない8ビートの高速ハンマービートを軸に、"Nonagon Infinity"で培った、頻繁な変拍子へのリズムチェンジ、King Crimsonの"Discipline"的な教則本風の反復リフによるポリリズムが炸裂し、いきなりテンションMAXでぶちかましてきます。ほんと最高。ここでは"Altered Beast"が半分人間/半分野獣(熊さん)のキメラ的異形であることが語られます。モデルとなった"獣王記"のジャケットを見てみると、確かに頭はシュッとした感じの熊で、体は引き締まりつつシックスパックマッスルなヒューマン・パーフェクトボディです(全裸)。ゲーム中ではステージによって狼、ドラゴン、虎などにも変身するみたいですが、何故かプレイした人はみんなひたすら熊がかっこいいとか、かわいいとか言っています。まあヒグマなんかは非常に残忍で哺乳類最強説もありますから、"Altered Beast"としてピッタリだろうということで熊が選ばれたんだと思います。
 M3"Alter Me I"は主題"Altered Beast"と対置された人間目線の裏テーマ"Alter Me"の第1セクション。以降このふたつが交互に出現する曲構成となっています。この表→裏→表…という構成は、"I'm in Your Mind Fuzz"での"Mind-Fuzz組曲"、"I'm in Your Mind(表)"と"I'm Not in Your Mind(裏)"を思い出させます。この曲では人間が"Alter(変化=野獣化)"されたいという恐怖と裏返しの欲望を持っていることが語られています。
 M4"Altered Beast II"では、リア・シニアによるナレーションはオルタード・ビーストの視点によるものにスイッチします。美しい声で残忍なオルタード・ビーストの凄惨な台詞が語られ、その倒錯感がなんだか我々をとてもエロティックな気分にさせる…ような気がします。オルタード・ビーストによると思われるフレーズ"I want to / Seize your brain / I'd like to put it in my head(お前の脳みそをわし掴んで、俺の頭の中にぶちこみたい)"は名作"I'm in Your Mind (Fuzz)"を思わせるような言い回しですが、ここではあくまでも物理的な暴力で、かつ"You're in My Mind"という逆関係になっているのが面白いところですね。いや主人公視点だとやっぱり"I'm in Your Mind"なのか。コーラスでの不自然に明るく爽やかなシンセの雰囲気と、シンバルのブレイクによる静寂のあと、"ビー!"というファズの発振音とともに激しいブラックメタルサウンドに急降下するところが、獣化への甘美な誘惑と暗黒世界への転落という歌詞世界を完璧にサウンドとして表現しています。素晴らしすぎる。この静寂とファズの発振音、ほんとに、ほんとにかっこよくて涙が出るんですけど分かりますよね?
 M5"Alter Me II"は"Alter Me"の主題がリフレインされますが、意図的にそのテンションは押さえ込まれており、また催眠的なベースサウンドも合わさって、次曲において獣へと"変化"する展開の溜めを演出しています。
 M6"Altered Beast III"ではついに主人公の人間はオルタード・ビーストに噛まれ、半人半獣へと変化します!獣化した証拠のひとつの描写として、"Nine white teeth"というフレーズがあり、オルタード・ビーストは9つの白い歯を持っているそうです。これは明らかに"Nonagon Infinity"との関連、"9"という数字のリフレインです。"9"は暗黒世界のようなものと繋がるキーである、という推測の妥当性が補強されますね。そして、曲の最後は"I am an altered beast!"という主人公の悦びに満ちた叫びで次曲へと移行します。
 M7"Alter Me III"は、前半はM5"Alter Me II"と同じように徐々に消え入るリズムと催眠的ベースが特徴ですが、リズムがほぼ消え去ったあと、後半で再び徐々に激しさが蘇ってきて、そこにブルースハープも重なり最終的には荒々しい展開となります。これは主人公がオルタード・ビーストに噛まれ、DNAに獣性が入りこんだことで、もともとあった"人間性"が限りなく縮退し、代わりに残忍な獣性が徐々に膨張していく様子をサウンドとして表現しているのだと推測できます。
  M8"Altered Beast IV"はオルタード・ビースト物語のキーとなる非常に重要な曲です。冒頭のナレーションでは、獣化すると愛も痛みも恐怖も感じなくなり、無気力に、ただスポーツのように他者を殺すだけの生き物になると語られています。その人生の中では、人肉の中毒性だけが唯一の生きがいとなります。コーラスの、お経のように平坦な息継ぎなし早口ループボーカルとポリリズムが、この"終わりなき無気力な殺戮"をうまく表現していますね。それでも獣化した主人公は、何にも意味を感じない空虚さを埋め合わせるためだけに、殺戮を繰り返さざるをえないのです。このような無間地獄的なテーマは"Nonagon Infinity" をはじめキンギザ作品の基本概念と言ってもいいでしょう。
 M9"Life/Death"はオルタード・ビースト物語のエンディングです。M4"Altered Beast II"のコーラスで登場した不自然にハッピーなシンセのメロディがこの曲の主題として再登場しており、それをバックにリア・シニアの淡々としたナレーションがこの物語の結末を語ります。それによると、獣化した 主人公は"人間性"を失い、自己の意志が欠落した存在となった結果、私と他者の区別が不能なアイデンティティ崩壊状態となりました。このナレーター(神?)は、オルタード・ビーストは自分の価値に不相応な多くの他者を奪い取ってきたのだから、そのぶんを地球に還元するべきだと宣告し、オルタード・ビーストは死に、その骨が地球の養分となって新しい世界の誕生に寄与するのでした。終わり。ラストの"ビャー"というオルガンの不協和音とナレーターの"Die, Die, Die..."という台詞がなんだかB級ホラーチックですが、内容としては珍しく結構ハッピーエンドなんじゃないでしょうか?(獣化しているとはいえ)人間の死が地球の繁栄につながるというのはキンギザらしい厭世的な皮肉ですが、まあそもそも獣性と力に憧れを抱いた人間に落ち度があるわけですからね。
 さて、このオルタード・ビースト物語は何を寓話しているのでしょうか?様々な解釈ができそうな普遍性があるので、ここではあえて詳しく述べることはしませんが、私の一面的で陳腐な感想としては、"多様性"と"持続可能な幸福の追求"が大切だよなあということです。人間が一様に"力への志向"を持つことになれば、それは結局のところパイの奪い合い、ゼロサムゲームにしかなりません。強者であるためには相対的に弱者の存在が不可欠だからです。そしてこのような単一の価値世界では強者はただ一人しか存在を許されず、ゆえに殺戮が行われ待ち受けるのは緩やかな種の絶滅です。オルタード・ビーストは人間を殺し食べることが生の目的、存在意義ですが、その最終的な帰結は、もはや食らうための人間がいなくなった世界。そんな世界ではオルタード・ビーストは自身の存在意義を失い、彼は何者でもなくなってしまうのです。だから我々は芸術などを嗜んで、他者や外界を消費するのではなく、そこから人間性:想像力によって多様な価値を生み出し幸福を感じることが大切なんだと思います。以上個人の感想でした。

第2章:The Lord of Lightning vs Balrog

 M10"Some Context"は第2章のイントロで、ここでは"Nonagon Infinity"に収録されている名曲"People-Valtures"の主題がシンセで 引用されています。またここで使われているカラスの鳴き声は、この物語の結果、"The Acid Corpse(異臭を放つ死体)"と化した敗者を示唆しているのではないかという海外兄貴の考察がありました。なるほど。
 M11"The Reticent Raconteur"では再びリア・シニアのナレーションがメインの語り曲で、この物語の導入として重要な曲です。ロード・オブ・ライトニング組曲の主題が後ろで提示されています。語りの中で、"I saw death become of light, and life become of fire"という一節があり、これは英雄的な雷の主vs悪魔的な炎の怪物バルログという安直な正義/悪の構図が実は欺瞞であるという示唆でしょう。 冒頭にはJoey氏によりホーメイみたいなバックコーラスが披露されています。多才ですねえ。ちなみに"Reticent Raconteur"という難しいタイトルは、直訳すると"寡黙な弁舌家"みたいな意味です。矛盾しててお洒落なタイトルですね。また語りの一節"And its memory repeats inside of me, ostinato"の中の"ostinato"という見慣れぬ単語は、"執拗反復"—あるパターンを何度も繰り返す音楽的手法—を意味する音楽用語らしいです。これはまさにキンギザの音楽性のことで、自己言及のダブルミーニングですね。
 M12"The Lord Of Lightning"では、いよいよ第2章の本編に入ります。ライトニング!オー!という叫びとともにStu氏おなじみの宇宙人がワープするようなディレイファズエフェクト(この例え、伝わるのだろうか)が鳴り響き、性急な8ビートの狂乱が再び始まります。ブルースハープも登場しテンション爆上がり。そして"Nonagon Infinity"の合言葉がここでも登場、ノナゴンの一言ごとに私の感情が倍々に高揚していくのがわかります。コーラスでは7拍子の変拍子にシフト、これはもういつもの得意技。テンションの高い曲ですが間奏にリア・シニアの淡々としたナレーションが頻繁に挿入され、その対比がとてもいいです。"Nonagon"リフレインの3回目のあとにはヘヴィ・メタルなテンポ・チェンジが行われ、ライトニング!の叫びとともに再び高速8ビートに舞い戻るのが最高です。Stuギターの宇宙人ディレイファズとAmbroseブルースハープ、正確無比なCavanaghスネアの連打でカタルシスに至ったのち、なんとここでキンギザの代表曲"I'm in your Mind Fuzz"のイントロに突然シフトし、え!?とびっくらこいたところで次の曲へ。曲中では"The Lord of Lightning"が罪のない一般市民に向けてホーミング機能のある雷を指先から発射している様子が描写されています。ふつうにやべえやつですね。また、この主が発射した雷によって死んだと思われた人間の死体が、燃え上がり動き出してバルログが誕生した、と語られています。歌詞にちょろっと出てくる"Cat o' tails"というのはバラ鞭の一種で、先が9つ又になっている鞭だそうです。ここでも"Nonagon Infinity"への暗示がなされているわけですね。
 M13"The Balrog"は引き続き高速8ビートに幾多の変拍子が挟まる"Gumma Knife"的な曲。前曲の最後に"Mind Fuzz"が登場したということで、ベースラインはそこから引用されています。ナレーション中のギターリフは"People-Valtures"と"Evel Death Roll"のリフを融合させたものだとGeniusで指摘されています。確かに。そして終わりの語りの部分では名曲"Trapdoor"が引用されていますね。こういう再利用ってとても好きです。この曲ではバルログの縦横無尽の大暴れが描写されており、その圧倒的な力に人間はなすすべなく恐怖し平伏します。そんなところにロード・オブ・ライトニングが戻ってきたので、バルログはその胸に刻み込まれていた底知れぬ憎悪が誰に向けられていたものかを思い出し、果たしてロード・オブ・ライトニングとバルログは対峙します。最後の一節が最高にかっこいいです。"The stage was set for war, and to the Balrog, the Lord's finger beckoned—戦いの舞台は整った。雷神はバルログに向けて指をくいっと曲げた、かかってこいと。"最強バトルの火蓋は切って落とされた!というところで次の曲へ。
 M14"The Floating Fire"に入ると、重く暗い陰鬱な雰囲気の行進曲のような展開に。そしてテンポアップしてM12"The Lord Of Lightning"のコーラスが再登場し、ロード・オブ・ライトニングの勇姿が再び高らかに歌い上げられ、最後のひと盛り上がりとなって終了。これは戦いの結果、ロード・オブ・ライトニングが勝利したことを示していますね。また非常に興味深い一節として"And we are reminded who lords over this altered world(この変質した世界を誰が支配しているのかを思い出した)"と語られています。"Altered"はこの作品の第1章でもキーとなった言葉で、第3章でも"Han-Tyumi"が語る言葉として出てきます。その真意は正直よく分からないのですが、変質した世界とは"Nonagon Infinity"のドアが開かれた世界ということでしょうか?あるいはダビングを繰り返し劣化していくビデオテープのように、無限ループしながら少しずつその内容が変化している世界を示しているのか?
 M15"The Acid Corpse"は第2章のエンディングで、雷を落とされぶすぶすと燻っているバルログの死体と、なんの興味もなさげにさっさとロード・オブ・ライトニングが帰って行く姿が描かれています。Joey氏のホーメイがいかにも神話的な雰囲気を醸し出しています。なんだかバルログにすっかり感情移入しているので無情感の漂う哀しい結末ですが、逃げ惑う一般市民からしたらこんなバトルどっちが勝つとかどうでもよくて、ただ迷惑なだけなんですよね…そんななんとも言えない気持ちになるキンギザらしい物語でした。

第3章:Han-Tyumi And The Murder Of The Universe

 M16"Welcome To An Altered Future"は"MOTU"の最終章である第3章の序曲です。バックには寂寥感のあるレトロなシンセ、そこにナレーションが乗ります。ここまではナレーションはリア・シニア嬢によるものでしたが、第3章からは"Han-Tyumi"自身と思われる機械音声にスイッチします。この機械音声の正体はNaturalReaderという機械音声Webサービスで、"UK - Charles"というSpeeker設定にした声だそうです。試してみると、確かに同じ声になります。他にも様々な国のSpeekerがいらっしゃって、それぞれ各国の訛りを反映した機械音声となっているのが面白いですね。そんな中でもCharlesは最も落ち着いていて理性的でちょっと神経質そうな典型的英国紳士という感じで、狂ったサイボーグというキャラクターをコントラストによってより鮮明に浮かび上がらせています。内容としては人類が総機械化し、全ての実在がデジタルに置き換えられた死もなければ神もいない"Digital Black"な惨憺たる荒涼とした世界、そんな"Altered World"へようこそ、という感じ。
 M17"Digital Black"はこの章のハイライト、というか"MOTU"で最もインパクトのあるキャッチーなメタル曲です。キンギザとしては遅めのBPMですが、その分戦車のように重厚なリズムの上を毎度おなじみStu氏の宇宙人ディレイファズが咲き乱れます。頻繁に挿入される"デドデドデド"という3連符リフがとても印象的です。これは"Digit — 二進法:あらゆる機械はデータを0と1の2値のスイッチングにより解釈する"をリフとして表現していると思うのですが、深読みが過ぎますかね?でもリフに合わせて"デジデジデジ"と歌ってたりするので多分そうなんだと思います。また、"No future, computer, abuser"というフレーズは音韻的に気持ちよく意味的にもこの曲の世界観をうまく表現している素晴らしい歌詞だと思います。全体的に韻の踏み方が絶好調な気がしますね。デジタルブラックという言葉も非常に刺さるキラーワードで、あらゆる人間がデジタル脳に置き換わった場合、電波や光ファイバーを媒介として相互に接続されたネットワークを介して情報を認識、やりとりするわけで、もはや光や音などの刺激によるコミュニケーションは不要となり、そのための入力装置である目や耳などの感覚器官は退化して無くなってしまうのでしょう。そんな世界は、認識論的に言えば闇と静寂に包まれた暗黒の世界です。歌詞中では、人間は自然を虐待したがゆえに、環境破壊により飢饉や災害などに見舞われ、自分たちが生き残るために自らを機械化した、という背景が語られています。また"Han-Tyumi"が痛みを感じることができる、ナマの子宮から生まれた最後の人間である、とも語っています。
 M18"Han-Tyumi, The Confused Cyborg"はキンギザの演奏をバックに"Han-Tyumi"の自己紹介的な独白が行われる重要な語り曲です。その中では彼が空っぽの魂を持ち生まれながら、次第に"人間性"を獲得したいという意志が芽生え、ブッダのような瞑想を続けた結果、サイボーグには不可能な2つのことをどうしてもしたいという欲望に駆られます。それは、"Death and Vomit"—死ぬことと嘔吐すること。死を渇望することはなんとなく理解できますが、なんで嘔吐?という疑問が浮かぶと思います。これはキンギザ流のおふざけというか、ひねりだと思うのですが、一方でそれは人間が一般的に不快で忌避する、本能的に目を背けたくなる行動の代表として捉えると結構納得できる部分もあると思います。普通に現代に生きる人たちは"きれいで楽しくて喜ばしいもの"、例えばディズニーランドやファンタジー映画を追い求めるものですが、それは目指すべき理想郷であり永遠に辿り着けない夢想であるという点で、人間の本質を表現するものではありません。人間の生き物としての本質は、遺伝子をできるだけ多く残す、そしてそのために目の前の危機に対処またはそれから逃避し生き延びる生存本能です。そのために人間の脳には恐怖や不快感、不安といった、危機を危機として無条件に認識する仕組みが組み込まれています。人間の高度な思考体系も、全てはこの忌避という根本原理を基礎として構築されているのです。命を脅かす危機の可能性が限りなく希薄になった現代生活ではその重要性がディスニーランドに隠匿されています。しかし、嘔吐をはじめとして、憎悪、殺人、近親相姦、ゴミ漁り、等々、こうしたものは一般的に"悪趣味"として敬遠されがちなものですが、それらを正面から描く作品は人間の本質に迫ろうとしているという意味で崇高であると、私は言いたい。すみません、話が逸れました。とにかく"嘔吐"は人間の本質の一側面である、ということです。というか、もしかしたら実存主義の代表作、J・P・サルトルの"嘔吐"を参照しているのかもしれませんね。
 M19"Soy-Protein Munt Machine"はこの物語の"転"にあたる曲で、前曲と同じように"Han-Tyumi"の語り曲です。未来的なような懐古的なようなそんな雰囲気のシンセサイザーが印象的です。ここでは彼が鉄製の機械人間を作ります。その機械人間は吐いて死ぬためだけに作られた、"Han-Tyumi"の欲望を満たすためだけの存在です。この行動が、最終的に"Murder of the Universe"を引き起こすことになります。タイトルから、この機械はソイプロテインを吐くもののようです。なんでまたソイプロテインなの?って感じですが、かの有名な名作ディストピアSF映画"Soylent Green(1973)[Wikipedia]"からの着想かな、と思いました。
 M20"Vomit Coffin"は"Digital Black"と似たような雰囲気の、ブリッジ・ミュートによるズンズンとしたリズムが特徴のメタル曲です。"Vomit Coffin(ゲロ棺桶)"は"Han-Tyumi"が前曲で作った吐いて死ぬだけの"ゲロボット"を指す言葉のようで、曲中では"Coffin"と"Coughing"をかけた言葉遊びや、吐き過ぎて咳が出ている様子を真似たStu氏の声が入っていて面白いです。間奏では"Han-Tyumi"の声で、せっかくゲロボットを作ったのにそのトンチキは全く私に対して愛情をみせない、それどころか私を憎んでさえいる。だからブチギレてソイプロテインの流れるチューブを私に繋ぎ替えてやった。お前が嫌なら俺がゲロを吐く。と語っています。途中でゲロボットによる台詞も別のSpeekerの機械音声で入っていますが、かわいそうな子どもですね、ゲロボット。
 M21"Murder Of The Universe"は第3章ヘン-タイウミ物語のエンディングで、壮大な"MOTU"の幕引きとなる感慨深い曲です。この曲も"Han-Tyumi"の独白がメインでバックにキンギザの演奏が流れる"Eyes like Sky"形式ですが、独白の進行と世界の終末の到来に近づくにつれ、次第にテンションが高まって行く絶望感の漂う演奏が私の感情をガンガンと揺さぶります。さて、希望通り嘔吐ができるようになった"Han-Tyumi"ですが、そのゲロの噴出の勢いはとどまるところを知らず、やがて自身の体はゲロの内圧で爆散し、世界に広がるゲロが"Han-Tyumi"の存在そのものと化します。ゲロはあらゆるものを飲み込み、1万倍、100万倍、10億倍というように倍々ゲームで増殖します。やがて世界はゲロで包まれ、これが"Murder of the Universe"なのでした。この描写の中では、"Han-Tyumi"が、世界に偏在するあらゆる実在や現象と化し、自分を神とみなすようになる"汎神論"的な思想が読み取れます。汎神論は17世紀の哲学者スピノザが提唱した神の概念で、のちの唯物科学論の基礎になったとも言われている重要で先進的な、宗教と科学を合理的に結びつける思想です。すごく簡単に言えば、自然も、人間も、あなたの目の前にあるコップも、全ては神の一部分であり、その形態を変化させているだけであるというものです。は?と思うかたは"エチカ"を読んでみればなんとなく分かると思います。個人的にスピノザが大好きなので嬉しいです。ノニリオン—10の30乗—倍に膨れ上がった場面では、"The cosmic microtone background becomes transparent"という一節があります。マイクロトーンとはもちろんキンギザの得意技、微分音のことですが、これは宇宙科学的に言えば"Cosmic Microwave Background(宇宙マイクロ波背景放射[Wikipedia])"の言葉遊びでしょう。宇宙マイクロ波背景放射とは、宇宙の始まりであるビッグバンの直接的な証拠である光子の波のことです。ビッグバンの大爆発によって宇宙に広がった波紋は、今でも宇宙のあらゆる場所でゆらゆらと漂い続けているのでアンテナで受信できるのです。ロマンチックですね。この一節はゲロがビッグバンが起きる直前に至るまで時間を遡り侵食していることを示していると思われます。そしてセンティリオン—10の303乗—倍に膨張したところで、特異点に達して、"宇宙は殺されました"。宇宙は"Han-Tyumi"そのものと化しているので、殺人という言葉は不適切のように思われますが、これは彼が、死という究極的な欲望を持っていること、そしてその願いが成就したという意味なのではないでしょうか。なんというか、自己中なやつですね、ヘン-タイウミは。でもそんな傲慢さこそ神であるための条件なのでしょう。

"MOTU"物語の関係性について

 一見するとこれら全3章の物語は独立しているように見えますが、いくつかの共通項を見出すこともできます。 例えば"Humanity(人間性)"というキーワード。これを軸にすると、第1章:オルタード・ビースト物語は人間性を次第に喪失していく過程、第2章:ロード・オブ・ライトニング物語は人間性の欠落したもの同士の争い、第3章:ヘン-タイウミ物語は人間性を獲得していく過程を描いていると捉えることができます。こうした場合、全3章は人間性の消滅と復活を繰り返す円環構造である、という見方ができます。"Nonagon Infinity"ほかキンギザ作品に多くみられる特徴ですね。 また"Alter"というキーワードも各章で用いられています。M16"Welcome To An Altered Future"という曲名は、変質した未来とは人類が総機械化した未来だとミスリードさせられてしまいますが、じつは"Han-Tyumi"が起こした"Murder of the Universe"後の世界のことを指しているのではないでしょうか。この場合もやはり、"MOTU"の最終曲でもって世界は一巡するという見方ができるように思います。

総評

 思い入れの強さと物語の重厚さによって、文章量が"Han-Tyumi"のゲロのように膨張してしまいました。全部読む奇特なかたはいないと思いますが、私の熱量が伝わったらそれでよしとします。とにかく壮大で奇妙でクレイジーでありながらキンギザの深い洞察が光る素晴らしい歌詞世界、そんなこと考えなくても単純に音楽として気持ちよくて感動できます。"一見難しそうに見えて実はシンプルでわかりやすい"という名作です。ですが悲しいかな、一般的な評価は妙に低くて、メタスコアは下から5番目、ユーザースコアに至っては下から3番目に位置する悲惨さです。好き嫌いの別れる作りですから、平均値をとるとそうなってしまうのでしょう。また、壮大なプログレ作品のような構成だが、実際の曲としてはいつものシンプルな8ビートの反復によるトランス性を軸としたキンギザの域を脱しておらず作り込み不足、という批評も見かけたことがあります。確かに曲の根幹部分はキンギザの手ぐせで作った感は否めないです。2017年の年間5作品リリース企画の中の1作なのでそれはしょうがない(ストックがあったとはいえ実質2ヶ月ちょいでこんなもの作るのは普通に考えて驚愕でしかないですよ? )。しかし私はそんな手ぐせにおいてこそ作家の本質が丸裸になるものだと思っていて、キンギザに心酔している者としてはそれが楽しくてしょうがないのです。"Polygondwanaland"がスーツを着たキンギザだとしたら、MOTUは全裸状態のキンギザです。外に出てはいけません。そういう事情でキンギザの"3つの最重要作品"からは除外しました。キンギザにハマったら聴けばいいし、お楽しみはあとにとっておいたほうが幸せですよね?
 ちょっとネガティブなことを言えば、第3章は"Hen-Tyumi"の語りがメインになっていて少し音楽的な盛り上がりに欠けるような気がします。"Digital Black"がかっこいいので、そこの展開の広がりをもうちょっと見たかったですね。とは言えこの機械音声の不気味な"語り"が大きな魅力であることも事実です。一般的には"Spoken Word"と呼ばれる、朗読をメインとする音楽形式ですね。私はこういうの大好きで、Black Flagの名作"Family Man"とか、英語あんまり聞き取れないけど、それでも何故かグッときます。あれは音楽すらないただの朗読が半分くらいのかなり実験的な作品でしたね。もちろん市民権のないアングラジャンルなので、嫌いなひともたくさんいると思います。
 最後に、Stu氏の言葉を引用して終わります。"I hope one day we make something studiper and uglier, but ‘till then… you’ve got MOTU. Love, Stu — いつの日かもっと馬鹿らしくて醜い作品を作りたいと思っている。けどそれまではMOTU聴いてね!"
 作らなかったら許さんからな。

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